罰則ではなくポジティブなフィードバックが成果を上げた実例!

医療現場における衛生管理は、病気のまん延を防ぐために極めて重要です。しかし、一部の調査では、適正な手洗いの順守率がわずか4割程度にとどまるという結果も出ています。医療機関を受診する患者としては、たまったものではありません。
では、どのようにすれば医療スタッフの手指衛生を徹底できるのでしょうか。もっと感染症について啓蒙すべきでしょうか。それとも手洗いをしているかきっちり監視し、注意を促すべきでしょうか。実は、別のちょっとした工夫でスタッフの手洗いを順守させることができるのです。
ニューヨーク州の研究プロジェクト
この問題を解決すべく、ニューヨーク州の研究チームは5万ドルの予算と2年の歳月をかけて大掛かりな計画に着手しました。
21台の監視カメラを集中治療室に設置し、20人の監視員が24時間体制で医療スタッフの行動をモニタリングするようにしました。カメラは監視されていることがスタッフにはっきりと認識できるよう堂々と設置されていました。ところが、ルールどおりの手洗いをするスタッフは10人のうちたったの1人だけだったのです。
監視だけでは不十分だと悟った研究者らは、次なる作戦に着手しました。
電光掲示板によるポジティブフィードバック
手洗い場所に電光掲示板を設置し、スタッフがきちんと手を洗うたびに「手指衛生遵守率:○○%」「本日の達成目標:××%」といった形式で、自分たちの行動をリアルタイムで確認できるようフィードバックしたのです。すると10%程度だった順守率が、なんと90%近くまで向上したのです!
この成果は驚くべきものであり、多くの科学者が疑念を抱いたほどでした。そこで研究チームは、別の病院の治療室でも同様の実験を行いましたが、やはり結果は同じだったのです。
成功の要因
なぜこれほどまでに、うまく手洗いを徹底することができたのでしょう。
1つは、リアルタイムで直ちにフィードバックをしたことが挙げられます。良い行動が行われたときに、すぐにフィードバックすることでその行動は強化されます。そして、それは「手を洗っていない人にブザーを鳴らす」といったネガティブなフィードバックではなく、手を洗ったことに対するポジティブなフィードバックだったということもポイントです。
次に、個々人を指名したり叱責したりするものではなく、チーム全体で良い数値を目指す仕組みをとったということが挙げられます。それにより「がんばれば数値が上がる」「みんなが頑張っている」というプラスのモチベーションが高まったと考えられます。
もし、個々人を指名して監視カメラで「洗わなかったらアラームを鳴らす」といった方法を採用していたとしたら、スタッフの抵抗感は高まり、心理的負担が増加して、ここまで良い成果を得ることは難しかったかもしれません。
ポジティブフィードバックの重要性
なにか組織で良い行動を定着させたいとする場合、つい罰則を設けたり監視を強化しようとしてしまいがちです。しかし、チーム全体に対してポジティブなフィードバックを与えることが、行動を促進するうえで非常に効果的です。
成果をリアルタイムで共有し、努力が目に見える形で認識されるようにすることで、協働意識とモチベーションを大きく向上させることができるのです。