成績の高い営業社員は本当に「優秀」なのか?〜人事評価に潜むバイアス

ペプシの副社長兼マーケティング責任者だったジョン・スカリー氏は、「ペプシ・チャレンジ」というマーケティングキャンペーンを実施し、その成功によって競争相手のコカ・コーラから多くのシェアを奪いました。そのキャンペーンは若者を中心に社会現象まで引き起こし、彼の名は瞬く間に世間の注目の的となったのです。
その功績を高く買ったスティーブ・ジョブズは、彼はをアップルに引き抜きました。ところが、彼の手腕が発揮されることはなく、アップルは長い低迷期に苦しむことになったのです。
なぜ、ペプシで大成功を収めた彼がアップルでその実力を発揮できなかったのでしょうか。飲料水とPCではマーケティングに大きな違いがあったからでしょうか。そこには「対応バイアス」という錯誤が生じていたのです。
対応バイアス
「対応バイアス」とは、他者の行動を評価する際に、行動を引き起こした状況や環境などの外的要因を過小評価し、結果だけで判断してしまう心理的傾向のことをいいます。
ある研究では、参加者を二つのグループに分け、一方には難しい問題を、もう一方には簡単な問題を解かせ、その正答率を第三者の観察者に評価してもらう実験が行われました。
結果は当然、簡単な問題を解いたグループの正答率が高かったのですが、ほとんどの観察者はこの結果だけを見て、正答率の高いグループを「有能」と評価し、正答率の低かったグループを「無能」と判断したのです。
難易度の違いは考慮されずに、結果のみで能力を判断してしまったわけです。
ジョン・スカリーはラッキーだった
ペプシのマーケティング責任者としてのスカリー氏が、決して無能だったわけでないでしょう。しかし実際に「ペプシ・チャレンジ」を発案したのは、現地のマーケティングチームであり、スカリー氏自身がアイデアを生み出したわけではありませんでした。彼は全国展開を指揮した立場に過ぎませんでした。
また当時のアメリカでは、「コーラ離れ」や若年層の嗜好変化が同時進行しており、「ペプシ・チャレンジ」が大ヒットしやすい環境でした。さらに付け加えると、1970年代後半のソフトドリンク市場は全般に拡大基調で、広告投資を増やせば売上が伴いやすい“追い風市場”でもありました。
彼は自身の能力以上に、たまたま“ラッキー”に恵まれていたのです。
人事評価において起きる「対応バイアス」
こうした対応バイアスによる錯誤は、人事評価においても見られます。営業社員の成績を売上高や利益額で評価するのは一見すると、客観的かつ合理的に思えます。実際に多くの企業がそのようなアプローチを取っています。
ところが、たまたま彼が担当していた地域が好景気だっただけかもしれませんし、彼のサポートチームが優秀なだけだったかもしれません。それらの外部的要因を考慮しなければ、営業社員の本当の能力を測ることはできないのです。
今回の事例からもわかるように、成功や失敗の真の要因を見極めるのに、結果だけで判断してはいけないということです。環境やチーム構成、タイミングといった外部要因を検証することが重要なのです。そうすることで公平な評価を下すことができるのです。