やりがいがあって給料も良い仕事なんてありえない?!

レストランのオーナーシェフであるあなたは、野菜そのものの素材の味を最大限に引き出した、これまでにない新しいスープを開発しました。味はもちろんのこと、野菜をふんだんに使用した無添加のとてもヘルシーなスープです。
そこであなたは、他店のスープと差別化するために健康面を前面に押し出した「ヘルシー栄養野菜スープ」と名付けて売り出すことにしました。一見すると、料理を楽しみながら野菜もとれる健康的な一石二鳥のネーミングだと思うかもしれませんが、実はこの手のメニューの売れ行きは、期待していたほど高くないものなのです。
「味」と「健康」どっち?
スタンフォード大学の心理学者ブラドリー・ターンウォルドらは、大学の学食で健康を重視したネーミングのメニューと、健康面より味を重視したネーミングのメニューを提供し、どちらの方を学生が好んで選ぶかを調査しました。
例えば、健康面を重視したものであれば、「健康を増進するカブ料理」「栄養を摂れる豆料理」。いっぽう味を強調したメニューは、「ハーブと蜂蜜入りバルサミコ酢で和えたカブ料理」「ニンニク香るピリ辛四川風豆料理」といった具合です。
すると、健康面を強調したネーミングより、味を強調したネーミングの方が29%も多く好まれ選ばれたのです。もちろん、見た目もレシピまったく同じメニューです。まるで学生は、健康的じゃない料理のほうが好みであるかのようでした。いったいどういうことでしょう。
味と健康は両立するはずがない
多くの人は(ダイエット中の人を除いて)、食事をする目的は美味しく食べることです。栄養や健康的であることは重要ではありますが、味と健康面はトレードオフの関係にあることを誰もが知っています。甘くて美味しいスィーツは、たいてい糖尿病の原因になりますし、油で揚げたジューシーな唐揚げはダイエットの天敵です。
つまり「健康的なメニューは、きっと味のほうは劣っているはず」と思ったのです。
子どもたちを対象にした別の研究でも、「頭が良くなる」「身体が強くなる」ということを強調してニンジンやクラッカーを食べるように促した子どもたちは、なにもしなかった子どもたちと比べて、50%近くも食べる量が減ってしまいました。
「大人たちはそういって、きっと美味しくない物を食べさせよとしているんだ」そう考えたのです。
余計な利点は強調しないほうがいい
良かれと思って別の利点を強調すると、もう一方の本来の魅力が薄れてしまうことがあるのです。特別な素材で裁縫したおしゃれなバッグが、お手頃価格でどこでも買えるとしたら、本当はお得なはずなのに、なんだか価値が低く感じられてしまうものです。
強調すべきは、本来の目的(食事であれば「味」、バッグであれば「おしゃれ」)なのです。もちろん結果的に健康に良かったり、価格もリーズナブルということであれば、本来の目的は害さないないでしょう。
会社経営についても同じです。大変だけれどもやりがいがあり、キャリアアップにつながる魅力的な仕事に対しては、あまり報酬面は強調しない方がいいかもしれません。
なぜなら「そんな高い報酬を支払う仕事は、きっとつまらなくて大変な仕事に違いない」と社員に思われてしまうからです。魅力的でかつ給料も良い仕事とは思ってもらえないものなのです。それなら純粋に仕事の魅力を伝えたほうがいいのです。