困難な目標を達成するための、たった一つの法則

若き登山家ジョー・シンプソンは、体感温度マイナス60度の極寒のなか、空腹に耐えながら腕のみで一歩また一歩と、ひとり雪面の上をはいずっていました。彼は下山の途中、氷壁から落下し、右膝を骨折する大怪我を負ってしまったのです。
しかし彼はそんな絶望のなか奇跡の生還を果たしたのです。
生死を分ける判断
標高6,344mを誇る世界有数のシウラグランデ山の登頂にみごと成功したシンプソンでしたが、彼に悲劇が起きます。足を滑らせ、右ひざを骨折する大怪我を負ってしまったのです。さらに悪いことに、深いクレパスのなかへと落っこちてしまったのです!
彼に残された選択は二つしかありません。このままここで死を待つか、あるいは出口があるかわからない暗く深いクレバスの先を進むかです。
彼は一晩中悩み続け、後者を選びました…「このまま何もせずに死にたくはない」

脱出したのもつかの間
彼は負傷した足を引きずりながら出口を目指しました。しばらく進むと数百メートル先にかすかな明かりが見えてきました。出口を見つけたのです。「やった!脱出できるぞ!」
しかし喜びもつかの間、すぐさま現実が彼を引き戻します。やっとたどり着いた出口の先に広がっていたのは、ギザギザとした険しい氷河と、ぽっかり大きな口開けた無数のクレバスだったのです。ベースキャンプまでの距離は少なく見積もっても10㎞以上。
空腹と疲労、そして右ひざの激痛、それでも生き残るためには前進する以外に選択はありません。そんな絶望的状況のなか彼がとった戦略こそれが「進捗の法則」だったのです。
進捗の法則とは
ハーバート・ビジネススクール教授のテレサ・アマビールは、2011年に仕事のやる気に関する画期的な論文を発表しました。彼女は、プロジェクトに参加したビジネスマン236人分の1万2千近い日誌を分析し、何が社員のやる気を高めるかを突き止めたのです。
それが「有意義な仕事が進捗していると認識できること」。つまり小さな勝利が力を与えてくれる「進捗の法則」だったのです。

進捗の戦略
シンプソンは目印となる岩を見つけると、腕時計のタイマーを20分にセットします。
「あの岩場に20分以内に到着しよう。
それが自分がやるべきことのすべてだ」
そう決心すると、目標に向かって突き進みました。そして目的地まで辿り着くと、また新たな目標を設定する、それを何度も何度も繰り返したのです。ミニゴールを達成するという小さな成功は、彼にパワーを与えました。その歩みはわずかでしたが、確実に前進していました。
途方もない先のゴールを見据えながらも、目の前のミニゴールに全意識を集中させたのです。まるでなにかに憑かれたかのように…それは彼に生きる希望を与えたのです。
そして5日目の夜、ついに彼の眼前に仲間たちの待つベースキャンプが現れたのです。彼は奇跡の生還を果たしたのです!
もちろんシンプソンがこの「進捗の法則」を知っていたわけではないでしょう。しかし彼ほど「進捗の法則」を実感した人物もいないでしょう。
たとえどんなに険しい道のりでも、目の前の課題に集中し前進し続ける。その小さな前進が先に進んでいこうという勇気と力を与えてくれるのです。