「ライバルは自分で他人は指標」が部下のやる気を上げる

仕事や学校の成績において、競争は避けられないものです。もし成績が良ければ、自分の順位を知ることで、さらに上を目指そうという意欲が湧くでしょう。しかし、成績が振るわない場合は、自信を失い、「どうせ自分はできない」とあきらめてしまうこともあるでしょう。
一方で、自分の成績について何のフィードバックもなければ、目指すべき方向や改善点がわからず、やる気を失う可能性があります。では、どのようにすればよいのでしょうか。他人との比較ではなく、過去の自分や目標と比較することで、モチベーションを高めることができるのです。
自分と比較することでモチベーションが持続
ヘブライ大学の教育学者ルース・バトラーは、学生を3つのグループに分け、どのようなフィードバックを与えることで、学生たちの学業に対するモチベーションがアップするのか実験を行いました。
1つ目のグループは、他の生徒の順位や平均点と比べて「クラスで何番だ」「同年代の平均より高い低い」といった他者比較を強調しました。
一方、2つ目グループは、学習課題への取り組み状況や過去の自分の成績との比較に重点を置き、「ここが改善できている」「さらに伸ばせる部分がある」といった目標志向的、あるいは成長志向的なフィードバックを与えました。
最後の3つ目のグループは対照群として、とくに成績やコメントは与えませんでした。
実験の結果
すると、1つ目の他者との比較を重視したグループは、短期的には「順位が上がりたい」「周囲に勝ちたい」という競争的モチベーションが高まりました。しかし自分よりできるクラスメートがいた場合や、一度失敗してしまった場合にはひどく落胆し、長期的な学習意欲や興味はむしろ低下してしまったのです。
2つ目の過去の自分や目標と比較するように促したグループは、「自分はここを伸ばせる」「過去と比べて成長している」という意識が芽生え、モチベーションが維持され、結果的にテストの得点も伸びたのです。
3つ目の何もフィードバックを与えなかったグループは、「自分がどれだけ進歩したか」「どこを改善すればよいのか」が分からないため、当然ながら学習成果やモチベーション面での改善は見られませんでした。
職場でのフィードバック
これは学生を対象とした研究ですが、職場においても当てはまる点が多いと思います。
他者比較は短期的には効果あり
たとえば、成績の良い社員には他者との比較による称賛が短期的には効果的な場合があります。特に、具体的な成果を示す形で評価されると、さらなる挑戦への意欲が湧くことがあります。しかし、他者を打ち負かすことを目標にするのは健全とは言えず、失敗時には深い落胆を招く可能性があります。また、成績が振るわない社員に対して低い順位を強調すると、やる気を失う原因になります。
成長志向フィードバックの重要性
一方で、自分自身の過去との比較を基にしたフィードバックは、長期的なモチベーションを維持しやすくなります。社員一人ひとりが自身の成長を実感し、自己効力感を高めることができるのです。たとえば、過去のパフォーマンスデータを活用して「前回よりも効率的にタスクを完了した」「このスキルが向上している」と具体的に伝えることが有効です。
もちろん、「他者比較を一切するな」という意味ではありません。適正な競争は成長を促す一面もあるため、バランスよく活用することが必要でしょう。ただしあくまで「ライバルは自分で他人は指標」なのです。