お役立ちブログ
人事評価や賃金制度、企業型DC(確定拠出年金)導入のポイントなど、経営者や人事担当者に役立つ情報を発信しています。
人事制度構築

個人かチームか…生産性を14%も高めた理由

個人の業績に応じて賃金を支払うべきか、それともチーム全体としてのパフォーマンスに対して報酬を支払うべきか。あなたが組織のトップだとしたら、どちらの制度を導入しますか?

チームの成果に対して報酬を支払うほうが望ましいように思う反面、「チームに紛れ込むことで、手抜きをする社員が出るかもしれない」といった懸念もあるでしょう。いったいどちらのほうが会社の業績をアップさせられるのでしょうか。

生産性が14%も向上

ワシントン大学セントルイス校のバートン・ハミルトンらは、アメリカにある縫製工場を舞台に、この問題を実証的に調査しました。

もともとこの工場では、1枚仕上げるごとに一定額を支払う「個人報酬(ピースレート)」、つまり個人の成果に応じた歩合制が採用されていました。そこへ新たに「チーム全体の縫製枚数を合計し、それに応じた報酬をチームメンバーで分け合う」制度を導入したところ、なんと生産性が10~14%(あるいはそれ以上)も向上したのです。
ただ支払い方法を変えただけで、これほどの効果が出るとは驚きです。

なぜ生産性が向上したのか

生産性が向上した理由としては、大きく以下の3点が考えられます。

  1. 相互学習効果
    高いスキルを持つ労働者が、低いスキルの労働者にノウハウを教えたことで、平均的なスキル水準が上がった。

  2. モチベーションの向上
    チームのアウトプットが直接報酬に結び付くため、メンバー同士でサポートし合うインセンティブが働いた。

  3. 業務の相互補完
    作業工程でボトルネック(問題)が生じた場合でも、複数人で対応できるため、生産性が下がりにくい。

つまり、チームに対して報酬を支払うように変えることで、お互いが協力し助け合い、個々に作業を行うよりも高い生産性を実現したというわけです。

フリーライダー(さぼる)問題の抑制

一般的には、チーム制にすると「誰かがサボっても、他の人の努力で同じ報酬が得られてしまう」というリスクが指摘されます。しかし、この縫製工場での結果を見る限りでは、

  • 高いスキルのスタッフが、低いスキルのスタッフに助言・指導することのほうが全体としてのメリットが大きく、

  • チームメンバー同士の相互監視や、「自分が手を抜けば仲間に迷惑をかける」という社会的圧力が働いた

といった要因によって、極端なフリーライド行為は抑制されたと考えられます。

高スキルのスタッフほどチーム制を好む

この研究で特に興味深いのは、「チームへの移行」が強制ではなく、「チームに入りたい人だけ移っていい」という任意参加の形式をとっていた点です。すると、高いスキルを持つスタッフほどチーム制度に移行する傾向が強かったのです。

高いスキルのスタッフは、自分一人の力だけでなく、周囲に教えることでチーム全体の効率が上がり、最終的には自分の報酬も増えると判断したのだと考えられます。つまり、できる人ほどチームの可能性を理解している、というわけです。

一方、そこまでスキルが高くないスタッフも、当初は「足を引っ張るかもしれない」と不安に思っていたものの、高いスキルを持つ人から教わったり、チームのサポートを得ることで自分一人では出せない成果を上げられると感じ、徐々にチームへ加入していきました。結果として、双方が刺激し合い、生産性をより高いレベルに引き上げることができたのです。


もちろん、すべての企業が同じ結果を得られるとは限りません。チームワークが必要ない仕事や、職場内の人間関係がギスギスしているような環境では、生産性向上が期待できない場合もあります。

しかし現代の多くの仕事は、複数人の協力が欠かせない形態をとっています。お互いに教え合う企業文化や、「誰が何をしているか」が見える化されている職場であれば、今回の縫製工場のように、チーム報酬の導入による大きなメリットを享受できる可能性が高まるかもしれません。