15%がアイデアをはぐくむ

1968年、化学素材メーカーの3M(スリー・エム)の研究者であったスペンサー・シルバーは、強力な接着剤の研究開発に取り組んでいました。しかし実験は失敗に終わり、かわりに「よくつくけれど、簡単に剥がれてしまう」というなんとも奇妙な接着剤が出来上がったのです。
当初意図していた製品とは違ったシロモノでしたが、スペンサーはなんとかこの接着剤を商品化できないかと、同僚に売り込みしてみました。
しかし、だれからも相手にされることはありませんでした。ただし、同じく3Mの研究者だったアート・フライにだけは、なぜかその奇妙な接着剤が強烈に印象に残っていたのです…
それから数年後、まさかあれほどの画期的な発明がもたらせるとは、そのときはだれも想像さえできませんでした。
15%カルチャー
数年の月日が流れた1974年のある休日、フライはいつものように教会に行き、賛美歌集のページをめくっていました。すると、ふいに挟んであったしおりがひらりと床に落ちたのです。その瞬間、彼の頭に電撃が走りました。「これだ!」
翌日、彼は慌てて研究室に戻ると、メモ用紙と接着剤を組み合わせた新たな製品の開発に取りかかりました。幸いにも3Mには「15%カルチャー」というユニークな企業文化がありました。15%カルチャーとは、勤務時間の15%を自分の好きなことになんでも使っていいという「不文律」です。この時間はだからも管理されず、上司の許可や承認さえ必要としません。だから「不文律」なのです。
フライはこの時間を活用して研究に打ち込んだのです。

さて、その製品とは?もうおわかりでしょう、そうポストイット(付箋)です!

密造づくり
3Mには「15%カルチャー」のほかにもう一つ、ユニークな不文律がありました。それは「ブートレッギング(密造酒づくり)」。ブートレッギングとは、たとえ上司の命令に背くことになっても、自分の信じる研究をするために、会社の設備を使ってもいいというものです。
彼はブートレッギングを使い、仲間のエンジニアたちから技術援助を受けながら、機械の開発に取り組んだのです。しかし、なかなか思うように開発は進みません。ついには自宅の地下室で自ら機械をつくり始めました。
情熱×自主性を重んじる企業文化
しかし思うように研究は進みません。それでもフライは決してあきらめませんでした。いくつもの課題を乗り越えながら執念の末、ポストイットを完成させたのです。気がつくと、すでに二年もの歳月が流れていました。
やっと出来上がったポストイットでしたが、当初、会社の上層部は本当に売れるか懐疑的でした。しかしいざ発売してみると、そんな上層部の心配をよそに、空前の大ヒット商品となったことは言うまでもありません。
それはまさに、3Mの社員の自主性を重んずる企業文化と、スペンサーそしてフライの情熱がつくり出した商品だったのです。