相対評価は本当に悪者か?甘い上司と辛い上司に当てはめる

人事評価はあらかじめ決められた評価基準に照らして客観的に評価する「絶対評価」が、一般的に好ましいとされています。一方で、他者との比較を前提とした「相対評価」は、否定的にとらえられがちです。
しかし、本当にそうなのでしょうか。実は、相対評価には評価におけるエラーを抑える効果があるのです。
目次
- レベルノイズとパターンノイズ
- 相対評価はノイズを抑える
- 相対評価の方が判断はしやすい
- 相対評価の誤謬
- 実務での運用法
レベルノイズとパターンノイズ
例えば、ある課長は厳しい性格で、めったに部下を褒めません。そのため、彼の評価は大抵C評価(期待を下回る)になりがちです。一方、別の課長は部下に甘く、多くの部下にA評価(期待を上回る)をつけてしまいます。このような評価者による甘辛のバラつきを「レベルノイズ」といいます。
また、営業成績を重視する課長は、売上数字や目標達成率を評価の中心に据えますが、コミュニケーションやチームワークを重視する課長は、全く異なる評価軸を設定します。同じ部下であっても評価項目の重視度の違いから、評価結果が偏ってしまうことを「パターンノイズ」といいます。
これらのノイズを完全に取り除くことは非常に難しいですが、相対評価を導入することで、ある程度抑制することができるのです。
相対評価はノイズを抑える
相対評価の代表的な手法である「強制分布法」は、評価対象者全体をあらかじめ決められた評価の割合(例えばA評価20%、B評価50%、C評価15%)に振り分ける方法です。
この方法では、評価者が厳しい性格の課長であっても、必ず一定割合の部下が強制的に高評価(A評価)となります。逆に評価者が甘い課長であっても、必ず一定割合の部下が低評価(C評価)に振り分けられることになります。
そのため、評価者ごとの性格(厳しさや甘さ)に左右される評価の偏り(レベルノイズ)は、どのような性格の課長の下であっても、一定に同じになるわけです。
また、評価者によって重視するポイントが異なることで起きる評価基準の偏り(パターンノイズ)についても、この方法である程度抑えることが可能になります。言い換えれば相対評価は、評価者による個人的な差や基準の偏りを均一化することで、誰が評価しても公平さを維持できる仕組みなのです。
さらに相対評価には、評価が容易になるというメリットもあります。
相対評価の方が判断はしやすい
例えば日本酒の味を単独で「甘いか辛いか」と評価するのは難しいですが、複数の日本酒を同時に比較し、「AとBではどちらが甘いか」と問われれば判断は簡単になります。
このように、評価対象を2つずつペアにして比較しながら評価を進めていく手法を「ペア比較法」といいます。ペア比較法では、評価するポイントを具体的に絞り込みやすく、直観的かつ正確に評価ができるというメリットがあります。特に曖昧で判断が難しい項目については、有効な評価方法といえるでしょう。
相対評価の誤謬
とはいえ、相対評価も万能ではありません。相対評価にもデメリットはあります。代表的なものとしては次の3つが挙げられます。
- 絶対的な質の無視:全員が優秀であっても一定数が低評価を受け、逆に全員が能力不足でも相対的に高評価を受けることになってしまう
- 部門間格差:異なる部門の順位1位同士が同じ能力水準とは限らず、公平性が損なわれる可能性がある
- 協力意欲の低下:相対比較されることで競争意識が高まり、知識や情報の共有やチーム内の協力関係が減少することがある
実務での運用法
以上のように相対評価も万能ではありませんが、評価に伴うノイズを軽減するメリットも大きいため、上手に活用することが望まれます。
実務的な方法として、まず絶対評価で各評価項目について評価を行い、その後に相対評価の視点を取り入れて評価結果を見直すという二段階方式を採用することで、より公平で正確な評価が可能になるでしょう。
さらに、相対評価のデメリットを軽減する手法として、「キャリブレーションミーティング(調整会議)」があります。これは、評価者が集まって評価結果を互いに比較調整し、評価基準を統一するための会議です。
キャリブレーションミーティングを定期的に開催することで、部門間や評価者間の評価基準のズレを修正し、部門間格差や絶対的な質の無視といった相対評価特有の問題点を抑えることができます。
このように、制度の工夫と運用の工夫を組み合わせることで、相対評価のメリットを活かしつつ、デメリットを最小限に抑えることが可能となるのです。