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人事制度構築

スター社員の神話:なぜ転職後に輝きを失うのか

「以前の会社ではトップセールスマンだった」。そんな鳴り物入りで入社してきた新しい社員が、「こちらが期待していたほどの人物ではなかった」という話を耳にすることがあります。
転職して以前ほどのやる気がなくなってしまったのでしょうか。それとも、たまたまスランプに陥ってしまったのでしょうか。
過去の輝かしい経歴という、その人固有の能力は、実は存在しないのかもしれません。

スター社員はどこでも活躍できるのか?

優秀な人材はどこへ行っても優秀だと、私たちは考えがちです。ライバル企業から優秀な営業マンを高い給料で引き抜くことさえあります。専門知識やノウハウは、その人に属する固有の財産だと思っているからです。しかし、必ずしもそうとは言えないのです。

グロイスバーグ教授の研究が示すもの

ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグ教授は、トップ証券アナリストの実績が転職後も維持されるのかを調べました。

証券アナリストは、個別企業の業績見込みや株式の売買推奨など、詳細なレポートを作成します。アナリストのスキル、財務モデル、業界内の人脈といったノウハウは、転職しても変わらないはずです。本人も転職先の企業も、それらのノウハウはそのまま移転できると考えています。

ところが、グロイスバーグ教授が316人の転職したトップアナリストの実績を調べたところ、半数以上が成績を大きく落としていました。以前の成績を取り戻すまでに5年ほどかかっていたのです。

個人能力だけでは説明できない要因

アナリストは一見、個人事業主のような存在であり、所属する会社に大きく依存しているわけではないように思われます。しかし実際には、会社が変わると成績は大きく低下してしまうのです。個人の有するノウハウとは別の要因が大きく影響していたのです。それは、組織文化や同僚同士の関係性、あるいは知らず知らずのうちに受けている周囲からの影響といった、目に見えない全体のプロセスでした。

一方で、他のチームメンバーと一緒に転職したアナリストは、短期間で業績を元に戻し、長期的なパフォーマンスも維持できました。このことからも、外部との関係性やチームを含む環境が重要であることは明らかです。

真に成果を生み出すもの

もちろん、能力の高いスター社員がいること自体は間違いありません。しかし、その裏には面倒な事務作業をこなしてくれるスタッフや、クレーム対応を担ってくれるスタッフ、そして伸び伸びと働ける環境を整えてくれる上司の存在があるかもしれません。有能な社員には、優秀なチームが支えているのです。

そのことを無視して、一人のスター社員だけをひいきするのは間違っているといえるでしょう。逆にいえば、チーム全体の環境を整えることが、高いパフォーマンスを発揮することにつながるのです。