お役立ちブログ
人事評価や賃金制度、企業型DC(確定拠出年金)導入のポイントなど、経営者や人事担当者に役立つ情報を発信しています。
人事制度構築

人事評価でよく使われる「自己評価」は止めたほうがいい?

人事評価でよく使われる「自己評価」。一見すると、自分で自分を振り返り、評価者にも現場の生の声を届けることができる良い仕組みのように思えます。よくあるのが各評価項目に自分でS・A・B・C・Dなどの評価点をつけるもの。

しかしこの種の「自己評価」には、意外な落とし穴が隠されているのです。

目次

  1. アンカリングが評価を歪める
  2. 人事評価でもアンカリングは起きる
  3. ダニング=クルーガー効果で誤った自己評価に
  4. 正しい自己評価を行うために

アンカリングが評価を歪める

評価者は他人の評価をするとき、最初に目にした数字や情報に無意識のうちに引きずられることがあります。これを心理学では「アンカリング効果」効果といいます。
経済学者のエイモス・トヴェルスキーらは、被験者にルーレット(改造されていて10か65で止まるように設定)を回させ、その後、次のような質問をしました。

「国連加盟国のうちアフリカ諸国の割合は、何%だと思いますか?」

すると、ルーレットで数字の10を見た人は平均で25%と答え、逆に65を見た人は45%ぐらいとだと答えました。ルーレットの数字とアフリカ諸国の割合はまったく関係ないはずです。しかし、最初に回したルーレットの数字にあきらかに影響を受けていたのです。

人は最初に見た数字を無意識に起点(アンカー)としてとらえ、たとえ無関係であっても、その数字に引きずられてしまうのです。

人事評価でもアンカリングは起きる

人事評価でも「私は業務を完璧にこなしました」と強気な評価が出されると、評価者は知らず知らずのうちにその自己評価に引っ張られ、高めの評価をしてしまう傾向があります。
逆に自己評価が低ければ、評価者も低めに評価しまうかも。こうして本来の客観的な評価が歪められてしまうのです。
そうでなくても、自信満々の自己評価点に辛口の点数はつけずらいものです。

ダニング=クルーガー効果で誤った自己評価に

往々にして、自己評価は間違ったものになりがちです。自分を客観的に見ることは難しいからです。むしろ真逆の評価をしてしまうことすらあります。

「あいつは仕事ができないくせにやたら自己評価が高いな」「彼は優秀なのにいつも控えめだな」そう思ったことはないでしょうか。それは「ダニング=クルーガー効果」という心理現象が生じているからかもしれません。

「ダニング=クルーガー効果」とは、能力が低い人ほど自分を過大評価する傾向が強く、逆に、優秀な人ほど自分の能力を控えめに評価するという現象です。自信過剰な人は自己を省みないため努力を惜しみ、逆に優秀な人は慢心せず努力を続ける結果を反映しているといえるでしょう。

しかしそれは、謙虚すぎる自己評価には過小評価されるリスクを生じさせ、自信過剰な自己評価には、自分が思っていたより低い評価に不満や不信感を生じさせます。

正しい自己評価を行うために

では、自己評価の弊害を防ぐにはどうすれば良いのでしょうか?実は、工夫次第で自己評価の悪影響を軽減する方法があります。

まず、アンカリング効果を防ぐためには、数値ではなくテキストベースで自己評価を記載させることが効果的です。数値的評価を最初に示さないことで、評価者が被評価者の評価基準に引きずられるリスクを低減できます。

また、ダニング=クルーガー効果を防ぐためには、自己評価に「良かった点」と「悪かった点」の両方を具体的に記載させる方法が有効です。両方の側面を意識させることで、自分の能力や成果を客観的に捉える機会が増え、過大評価や過小評価を抑えることができるのです。


自己評価を使う目的は「本人の振り返り」や「対話のきっかけ」です。しかし、この方法がアンカリング効果や自己過信といったバイアスを引き起こし、評価制度そのものの信頼性を損なってしまいます。
あなたの会社でも、いまの「自己評価シート」を本当に使い続けるべきか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。